浸水リスクと不動産価格DB

東京23区での位置

浸水リスクは地価にいくら織り込まれているか

当サイトはアフィリエイト広告を利用しています

−2.0%

浸水深1mあたりの㎡単価の差

東京23区の中古マンション取引を属性統制で分析した結果、想定浸水深が1m深い町ほど㎡単価は平均約2.0%低いという関係が確認されました。

出典:国土交通省 国土数値情報ほか 最終更新 2026-09-18 調査方法 ›

浸水想定の深い町ほど、マンションは安い。ではその差は、いくらなのか。

東京23区の中古マンション実取引39,840件(2023年以降)を分析した結果、想定浸水深が1m深い町ほど、㎡単価は約2.0%低い(95%信頼区間: −2.95%〜−1.04%)という関係が確認できました。同じ区・同じ広さ・同じ築年数・同じ構造で比べた場合の差です。

この結果は、日本銀行のワーキングペーパー(住宅地で▲1.1%/m)や、2026年6月に日経が掲載した公示地価ベースの分析とも方向が一致します。本記事では、公的オープンデータだけを使ってこの数字をどう推定したか、そして自分の町をどう読めばいいかを解説します。

「ハザードマップは価格に影響しない」は本当か

不動産系の解説記事では「ハザードマップの浸水想定区域に含まれても、地価はほとんど下がらない」という説明をよく見かけます。ただしその論拠を読むと、多くは「不動産の価格評価には災害リスクがすでに織り込まれているから、区域に含まれること自体で追加的に下がるわけではない」という趣旨です。

つまり「織り込まれていること」自体は前提になっています。では、いくら織り込まれているのか。この定量的な答えは、意外なほど見当たりません。

背景として、2020年8月の宅地建物取引業法施行規則改正により、不動産取引の重要事項説明で水害ハザードマップを用いた説明が義務化されました。売買でも賃貸でも、契約前の重要事項説明で、水害ハザードマップ上の物件の位置を示すことが宅建業者に義務づけられています(解説)。リスクが価格に反映される条件は制度的にも整っている。そこで、実際の取引価格でこの「織り込み度」を測ってみました。

使ったデータ

すべて公的なオープンデータです。

  • 取引価格: 国土交通省「不動産情報ライブラリ」の成約価格情報。東京23区・2021〜2025年の117,900件を取得し、このうち中古マンション等・2023年以降の取引に絞りました
  • 浸水リスク: 国土数値情報「洪水浸水想定区域データ」(想定最大規模)。東京都が公表する63河川分を使用
  • 町丁目の境界: e-Stat(政府統計の総合窓口)の2020年国勢調査 町丁目境界データ

浸水想定区域のポリゴンと町丁目境界を地理空間的に重ね合わせ、町ごとの想定浸水深(区分上限値ベースの面積加重平均)を算出。これを各取引に町単位で紐づけました。データに欠損はなく、分析対象の全取引に浸水リスク指標が紐付いています。

どう推定したか

「浸水深の深い町は川沿いの低地に多く、建物の古い物件が集まりやすい」など、価格には浸水リスク以外の要因も混ざります。そこでヘドニック・アプローチと呼ばれる回帰分析を使い、次の要因を統制しました。

  • どの区か(区の固定効果)
  • いつの取引か(取引年の固定効果)
  • 広さ(専有面積)
  • 築年数
  • 構造(RC・SRCなど)

平たく言えば、「同じ区・同じ年・同じ広さ・同じ築年数・同じ構造のマンション同士を比べたとき、町の想定浸水深だけが1m違うと価格が何%違うか」を取り出す方法です。水害リスクと地価の研究(前述の日銀ワーキングペーパーを含む)で標準的に使われている手法です。

なお、最寄駅からの距離といった町内の細かい立地条件までは統制していません。この点は結果の読み方に関わるため、後述の「留保・限界」で改めて触れます。

式や標準誤差の扱いなど技術的な詳細は、末尾の技術ノートにまとめました。

結果: 浸水深1mにつき約2.0%低い

項目
サンプル数 N39,840件(中古マンション等・2023年以降)
想定浸水深の係数−2.00% / m
95%信頼区間−2.95% 〜 −1.04%
決定係数 R²0.640
標準誤差区×町クラスタ頑健

町の想定浸水深が1m深いと、同条件のマンションの㎡単価は平均して約2.0%低い、という結果です。信頼区間がゼロをまたがないため、統計的に意味のある差といえます。

指標を変えても結論は変わりませんでした。 浸水深の代わりに「床上浸水率」(想定で床上浸水となる区分の面積割合)を使った推定でも、符号は同じく負で有意でした(係数−0.119)。

外部の推定とも方向が一致します。

  • 日本銀行ワーキングペーパー「水害リスクが地価に及ぼす影響」(2022年)は、公示地価を使ったヘドニック分析で、想定浸水深1mの上昇につき住宅地で▲1.1%、商業地で▲4.7%と推計しています
  • 日経が2026年6月に掲載した分析(東京23区住宅地の公示地価676地点)でも、浸水深の区分が1段階上がるごとに価格が約3.4%低い傾向が報告されています

対象(公示地価かマンション実取引か)や指標の定義が異なるため数値は単純比較できませんが、独立した3つの推定がいずれも「浸水リスクは価格に織り込まれている」方向で一致しています。

この図は横にスクロールできます →

浸水リスクが価格に与える影響(3つの推定の比較) 本サイトの推定(浸水深1m) −2.0% 日銀WP・住宅地(浸水深1m) −1.1% 日経分析(浸水深区分1段階) −3.4%

※単位が異なるため図中の長さは単純比較できません(本サイト・日銀WPは浸水深1mあたり、日経分析は浸水深区分1段階あたりの変化率)。方向が一致していることの参考図です。

具体例で読む: 深さだけでは決まらない

約2.0%/mという平均値を、身近な金額に置き換えてみます。想定浸水深が2m深い町では、同条件のマンションでおおむね4%弱の価格差、6,000万円の物件なら約230〜240万円程度に相当します(対数モデルのため厳密には2mで約3.9%。またこの換算は浸水深の差が1〜2m程度の範囲での目安です。それ以上の差への単純な掛け算は、平均値の外挿になるため適切ではありません)。

実際の町を見ると、もう一つ大事なことが分かります。深さだけで価格が決まるわけではない、ということです。

想定浸水深の大きい町の例(いずれも取引10件以上の町):

想定浸水深の小さい町の例:

千住寿町とお花茶屋は想定浸水深がともに深い区分ですが、価格水準はまったく違います。回帰分析が示す「−2.0%/m」は、立地や物件条件が同じ場合の平均的な差であって、深い町がすべて安いという意味ではありません。逆に言えば、価格が高い町でもリスクの分だけは平均的に割り引かれている、ということです。

※町ごとの「想定浸水深」は、浸水想定区分の上限値を町の面積で加重平均した本サイト独自の指標です。実際のハザードマップは「5〜10m」のような区分で表記されます。お住まいの場所の正確な想定は、必ず自治体のハザードマップでご確認ください。

留保・限界

この分析を読むうえで、次の点にご注意ください。

  1. 因果関係ではありません。 属性を統制した相関(「水害リスクが高いから価格が下がった」という直接の因果を証明するものではなく、あくまで条件付きの平均的な差)の推定です
  2. 駅からの距離など、町内の細かい立地条件は統制していません。 区単位の違いは固定効果で吸収していますが、同じ区の中で浸水深の深い町が駅から遠い側に偏っている場合、係数が実際より大きく(マイナス方向に)出ている可能性があります
  3. 一方で、係数を小さく見せる方向の限界もあります。 対象は河川の外水氾濫のみで、内水氾濫・高潮は含みません。また浸水深は町全体の面積で平均しているため、町内に浸水しない高台があると数値が薄まります。河川敷(堤外地)も浸水面積に含まれます
  4. 対象は東京23区・2023年以降の中古マンション取引に限られます。 他地域や戸建て・土地には、そのまま当てはめられません

2と3は逆方向のバイアスであり、どちらが強いかはこの分析だけでは確定できません。日銀の推計(▲1.1%/m)と桁が揃っていることは、極端に外れた数字ではないことの傍証と考えています。

自分の町をどう読めばいいか

この分析結果を、住まいの判断にどう活かせるか。立場別に整理します。

すでに23区にマンションをお持ちの方

まず、トップページの区一覧から自分の町のページを開き、想定浸水深と価格パーセンタイルを確認してみてください。本サイトは23区938町すべてについて、実取引に基づく価格水準と浸水リスク指標を掲載しています。

リスクが価格に平均2%/m織り込まれているという事実は、裏を返せば「深い町の物件は、リスク相応の価格で取引されている」ということでもあります。過度に悲観する必要はありませんが、水害への備え(たとえば火災保険の水災補償が付いているか、補償内容が想定浸水深に見合っているか)を確認するきっかけにはなります。本サイトは想定浸水深から独自に算出した5段階の水害リスク指標を、各町・区のページにも掲載しています。

広告

備えの確認に

想定浸水深1mあたり㎡単価は平均約2.0%低い傾向が確認されています。備えとして火災保険の水災補償の内容を確認しておくと安心です。 → 水災補償が付いているかを確認する手順

火災保険の無料診断サービス

購入を検討する側の読み方

これから購入を検討する方

物件価格に浸水リスクが織り込まれているなら、「深い町の物件が割安に見える」のは値付けの誤りではなく、リスクの対価である可能性が高い。これがこの分析の実務的な含意です。重要事項説明で提示されるハザードマップを、価格と結びつけて読む視点を持つと、物件比較の解像度が上がります。

いずれの場合も、最終的な判断には自治体の公式ハザードマップ(区分・避難情報を含む)を必ずご確認ください。

技術ノート

モデル

ln(㎡単価) = β·想定浸水深(m) + 区FE + 取引年FE + ln(専有面積) + 築年数 + 構造ダミー + ε
  • 従属変数: 取引価格を専有面積で除した㎡単価の自然対数
  • 主説明変数: 町単位の想定浸水深(浸水想定区分の上限値を町面積で加重平均した指標。日銀WPと同方式)。町名で各取引に紐づけ
  • 推定: OLS。標準誤差は区×町の2段クラスタ頑健。※FEは固定効果(Fixed Effects)
  • サンプル: 中古マンション等71,091件 → 2023年以降40,508件 → 変数欠損の除外後39,840件(除外668件・1.6%)

データ出典(すべて公的オープンデータ)

参考文献

  • 小出桂靖・西崎健司ほか「水害リスクが地価に及ぼす影響」日本銀行ワーキングペーパー 22-J-10(2022) boj.or.jp
  • 日経掲載の分析(2026年6月・東京23区住宅地の公示地価と浸水リスクの検証)

本記事の数値は2026年7月時点の分析に基づきます。個別の物件・取引の価値を保証するものではなく、投資・売買の助言ではありません。